【2019年6月10日発行】
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■ 人事労務マガジン/6月号 ■
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【今号の内容】
● パワハラ防止対策が法制化
● 東証第1部上場企業の大卒初任給 遂に21万円台に
● 退職者に年5日の有給休暇を取得させる必要があるか?
● 積極性のない労働者の解雇は有効か?
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1.パワハラ防止対策が法制化
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本メールマガジン3月号でも報じたように以前から議論のあったパワハラ防止対策が法制化されました。
2019年5月29日、参議院本会議において、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律が可決・成立しました。この中に労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)が含まれており、以前から議論のあったパワハラ防止対策が法制化されました。
そのポイントは以下のとおりです。
1事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設。あわせて、措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備。
2パワーハラスメントに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保のための規定を整備
3セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法含む)
(1)セクシュアルハラスメント等に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務の明確化
(2)労働者が事業主にセクシュアルハラスメント等の相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いを禁止
※パワーハラスメント及びいわゆるマタニティハラスメントについても同様の規定を整備
大企業については2020年4月1日に施行され、中小企業についても2022年4月1日に施行される見込みとなっています。
詳しくは、本メールマガジン3月号をご覧ください。
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2.東証第1部上場企業の大卒初任給 が21万2千円台に
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近年、深刻な求人難の中で、新卒初任給の上昇が続いています。そこで今回は労務行政研究所の「2019年度 新入社員の初任給調査」結果を見ていきたいと思います。なお、この調査は東証1部上場企業2,090社のうち、回答のあった241社を集計したものとなっています。
1初任給の引き上げ状況
2014年度から初任給の引き上げ率は回答企業の20%を超えていますが、2019年度についても35.7%の企業と高い水準となっています。
2学歴別決定初任給
全産業での学歴別決定初任給は以下のようになっています。
高校卒(事務・技術)一律 170,505円(前年比+1,498円)
短大卒(事務) 182,184円(前年比+1,413円)
大学卒(事務・技術)一律 212,304円(前年比+1,479円)
大学院卒修士 229,951円(前年比+1,548円)
このようにすべての区分で初任給が1,500円前後増加しており、高校卒については遂に17万円台に乗ってきています。採用を行う際、初任給が見劣りし、そもそも他社との競争にもならないというような状況の企業が少なからず見受けられます。今回の統計は東証一部上場クラスのものではありますが、着実に初任給水準は上昇していますので、自社の水準の確認をきちんと行っておきましょう。
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3.退職者に年5日の有給休暇を取得させる必要があるか?
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働き方改革関連法の施行に伴い、年5日の年次有給休暇の確実な取得が求められるようになりました。これに関連し、厚生労働省は「改正労働基準法に係る疑義照会・応答事例(平成31年3月14日)」を内部資料として作成し、全国の労働基準監督署に通達しています。
この資料の中ではいくつか注目すべき内容がありますが、その一つに会社が年次有給休暇の時季指定をした日よりも前に退職する場合の取り扱いがあり、以下のように示されています。
【疑義】
法第39条第7項により時季指定付与したが、指定付与日までに自己都合退職などし、退職日までに全ての指定付与日が到来しない場合、退職申出から退職日までの間に、新たに時季指定を行う必要があるか。また、突然の退職等により与えるべき期間が短い場合はどうすればよいか。
【回答】
法第39条第7項は、年5日の年次有給休暇を実際に取得させることを要するものであり、前段・後段とも、労働者の意見を(再)聴取した上で退職日までに5日の年次有給休暇を取得していただくことが原則である。(なお、実際に突然の退職等により義務を履行できなかった場合には、個別の事情を踏まえた上で、当該事業主に対して丁寧に助言等を行われたい。)
退職者の取得状況は見落としがちですので、退職の申出があったときには年次有給休暇の取得状況を確実に確認するようにしましょう。
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3.積極性のない労働者の解雇は有効か?
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最近の裁判例から、「積極性のない労働者の解雇」について考えてみます。
Q: 弊社の従業員が上司からの指示でしか仕事をせず、
依頼内容についての詳細な指示がない場合は、「詳細な指示を受けていない。」と言って
まともに仕事を行いません。
その結果、上司やまわりの社員との関係性も悪化し、
この人に対する仕事の依頼自体も減ってしまいました。
この場合、この労働者を解雇することはできるのでしょうか?
A: 労働者を解雇する際の事情の1つとして、上記のような仕事に対する姿勢を指摘することは可能です。労働法の内容を確認しても、労働者が自ら積極的に働くということが
労働契約の解釈として定められています。
「これだけをすればいい。」といった働き方は求められていませんし、
消極的な働き方は事業場においては否定されます。
業務に対する姿勢が実質的な解雇の理由になりますが、
「積極性」がないという性向を直接的な解雇理由とするのは慎重になる必要があると考えられます。
このような性向を既定の就業規則の解雇事由に当てはめることが、
解雇を有効と判断させる要因に結びつきます。
実際の裁判例で、平成30年に起こったアクセンチュア事件というものがあります。
この裁判では、ある労働者Aが、「他のメンバーと協働して、必ずしも得意な分野に
限定されない様々な領域の業務に取り組む積極性が欠ける」として、
改善すべき点を何度も指摘され続けた後、普通解雇されました。
Aは解雇が無効かつ違法であると主張し、地位確認、賃金の支払い等を求めて提訴しました。
判決では・・・・・。
「自身の問題点を、そもそも自身が得意とする仕事を割り当てない
会社側の問題点であるとすり替えて、自らの意識や仕事ぶりをまったく省みることなく、
これによって他のメンバーとの協働に支障をきたしていることにも思慮が至らない」
という理由で普通解雇したことが認められました。
参考文献:
「ビジネスガイド2019.5 No.870」
以上。
以上。